出陣!2009/02/12

カポ カポ カポ

暖かな日差しの下、一子乱れぬ隊列の先頭を馬に乗って進み行く主の姿を誇らしげに見詰めていた勘助は、ふとその視線を足元に落とす。
其処にはどの武将よりも堂々たる態度で付き従う、馬よりも小さな生き物が主君の直ぐ後ろを歩いていた。
勘助は、眼帯を着けている左の眉を僅かに下げた。

「お館さま」
「なんじゃ」
「…その、誠に申し上げ難いのですが」

コホン、とわざとらしい咳をして切り出した家臣に、信玄はゆっくりと視線を向けた。

「なんじゃ、さっさと言うてみい」
「は。…その、今更とは存じておりますが、戦に犬をお連れするのは如何なるものかと申し上げます」

尻尾をピンと空高く立てて横を歩く犬を見下ろして、信玄は不思議そうに首を傾げた。

「何故じゃ。幸村は武田の立派な将ぞ。戦に連れなんで何とするか」
「た、確かに幸村どのの戦での活躍ぶりは目を見張るものがありまするが…」

実際、彼はどの兵士より多くの敵将を討ち取っている。…しかし。

「心配は無用。これは己の身は己で守る。戦に出たいと望む者を、止め立てする事もあるまい。のう、幸村?」
「ワン!(はい、お館さま!!!)」

犬用の真紅の鎧(信玄が作らせた)を身に纏った茶色の犬は、元気良く尻尾を振って大きな声で吠え、信玄は満足気に頷いた。

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