帰陣2009/03/04

ザクザクと何かが頭を突き刺す感触により目覚めるのが、幸村の毎朝の日課だ。

「カァカァ!(ちょっと旦那、起きないと遅刻するよ?)」
「ん…? 佐助か」

瞼ををゴシゴシと擦って起き上がった幸村は、布団の上で己を見上げる一羽の烏を見て手を伸ばす。

「いつもすまぬな」

笑いながら頭を乱暴に撫でる幸村に、抗議をするように烏は又一鳴き声を上げた。



「おい、幸村」

放課後の教室にて、クラスメイトの政宗に呼び止められる。幸村は帰り支度をしていた手を止めて視線を向けた。

「何でござるか、政宗どの」
「これからゲーセンに行かねぇか? この間の決着付けようぜ」
「今日は駄目でござる」
「An? 何でだよ?」

不機嫌そうに口を尖らせる政宗相手に、幸村は生真面目に答える。

「急ぎ家に帰り、お館さまのお戻りをお待ち申し上げておらねばならぬのだ」
「Shit! 最近そればっかりじゃねぇか! 一体何時になったら帰って来るってんだ?」
「そのような事、某になぞ判り申さぬ。お館さまは忙しい身で在らせられる故、半月以上留守をされる時もある。某はただ何時お戻り頂いてもお出迎え出来るよう万全の準備をしておくだけだ」
「Ha! 大体帰って来るのかも怪しいもんだぜ。お前の家族じゃねぇんだろ?」

馬鹿にしたような政宗の台詞を真に受けて、幸村は真っ赤な顔で動揺し、肩にかけていた鞄をボトリと落としてしまった。

「かっ…! 家族などと、恐れ多い! お館さまはこの甲斐を統べる高貴な身。そ、某はただ、あの方の為にお仕えする事だけが望みであれば」
「Oh…いい加減その話は聞き飽きたぜ。OK判った、さっさと家に帰って待ってな」
「うむ、かたじけない」

ウンザリ気味の政宗にあくまでも生真面目に頷き、そして何でもないように一言付け足した。

「それから政宗どの、おぬしにも迎えが来ているようでござるよ」
「迎えだと?」

ヒョイと窓から校門を覗くと、一匹の凛々しい犬が礼儀正しく鎮座していた。キャアキャアと遠巻きに騒ぐ女の子達にも毅然とした態度で受け流している。その姿は『気安くオレに触るんじゃねぇ』と言っているように見えた。

「こっ…小十郎!」

政宗はガタンと音を立てて立ち上がり、慌てて教室を飛び出して行く。その嬉しそうな後姿を見送った幸村は、彼も相当に骨抜きだと思って笑みを浮かべた。

帰り道、歩いていた幸村の肩に颯爽と止まった烏の佐助に首を傾げた。

「どうした佐助?」
「カァ(大将、帰って来たよ)」
「何?! それは真か、佐助!」

慌ててダッシュして家に辿り着いた幸村は、縁側で丸くなって寝ている猛々しい虎猫を見つけて感激の雄叫びを上げた。

「うおおぉぉぉお館さむぁああああ!!!!!」
「……ニャ?(何だ、騒がしい)」

ギロリと強く鋭い眼光を向けたその猫に駆け寄り、抱きつかんばかりの勢いで飛び掛った幸村の腕を難なくスルリとすり抜ける。そしてそのままその頬に強烈な猫キックを与え、幸村の身体は庭へと吹っ飛んだ。幸村は直ぐ様立ち直り、膝を着いたまま顔を上げた。

「お館さま! 某、お館さまのお帰りを一日千秋お待ちしておりました!」
「ニャ(うむ)」

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